クリスチャン パートナーズ通信 第11号発行日/1991年10月 インドネシアの少数種族バタック族についてインドネシアは13677の島々、300以上の種族、250の独立言語があるとされる大変多様性に富んだ国であります。この点についてはクリスチヤン・パートナーズ通信第8号でカリマンタンに焦点をあてて、すでにご紹介しました。 宗教についても、インドネシアは回教、キリスト教(カトリック、プロテスタント)、ヒンヅー教、仏教が広く信奉されております。 日本貿易振興会(ジェトロ)の調査資料によりますと、年度の統計として次のように報告されております。 イスラム教 1億2846万人 88.2%
今回はその種族の一つバタック族について、現在アジア学院で研修の為来日中のデボラ・シナガ師が寄稿して下さいました記事から抜粋・要約したものを以下紹介させて頂きます。プロテスタン 851万人 5.8% カトリック 436万人 3.0% ヒンヅー教 299万人 2.1% 仏教 139万人 1.0% なお同師はバタック族出身でキリスト教婦人牧師であります。 バタック族はスマトラ島の北スマトラ州の山岳地帯にあるトバ湖を中心にして、その周辺に住んでおります。
【訳者注:同じスマトラ島の燐の州である西スマトラ州に住むミナンカバウ族は、バタック族とは対照的に母系家族で遺産は常に母から娘へと相続されます。成人した息子は母親の家を離れ、独立しなければなりません。人口は約500万といわれ、この中約350万がキリスト教徒(プロテスタント)であり、回教徒が支配的なインドネシアでは大変ユニークな種族であります。この種族に対するキリスト教布教の経緯を次に簡単に述べます。 オランダの植民地支配下でインドネシアでは欧米からの布教活動が各地で展閲され、バダック族に対しても各国から宣教師が来てキリスト教宣教に取り組みましたが、なかなか成果が得られませんでした。 最初の宣教師はムンソンとレイマンという二人のドイツ人でしたが、人食い人種として知られていたこの種族への初めての宣教活動は失敗どころか、悲劇に終わりました。この二人の宣教師は殺され、その死体は切り刻まれて種族の間で食べられてしまったということです。この悲劇が起きたのはした。1834年でした。 この二人の宣教師を派遣したドイツの宣教団体は、しかしながらこの失敗にめけず、それから27年後の1861年に再び宣教師を同地に派遣しました。この宣教師はインゲル・ノーメンセン博士でした。 同師は前任者の失敗から教訓を得て、バタックの言葉を習得し、種族の酋長にまずアプローチして、苦心努力の甲斐あって酋長の教化に成功しました。 いったん酋長がクリスチャンになれば、一般の人々への布教は容易に展開され、やがてバタック族全体のキリスト教化につながりました。そしてこの年の10月8日にバタック・プロテスタント・キリスト教団(HKBP)が誕生しました。 それから130年歳月がながれ、キリスト教はこの地に深く根付き、神学校も建てられ、多くのバタック人伝道者、クリスチャン指導者が輩出しました。インドネシア全人口のわずか3%足らずの少数民族ですが、バタック族出身のクリスチャンは現在も、国会議員、閣僚、軍人、実業家、学者、芸術家としてインドネシア各界で広く活躍しております。 シマトゥパン、シレガール、シナガ、シナンジュンタック、ナスーチオン、アリフィン、モクタールなどの名前のインドネシア人はこの種族出身です。 然しながら、バタック族社会の現実はキリスト教が広く根付いているとはいえ、まだ古い伝統が根強く残っており、シナガ師は女性の差別問題を取り上げて次のように説明しています。 女性は社会的に男性より劣るとして、色々な面で差別されており、女性がどんなに優秀でも彼等の社会の集会、例えば結婚式の場等では発言権が与えられません。 女性の役割はそのような場ではせいぜい料理を作るぐらいの補助的な役割です。男性は種族の慣習法の下で、主体者であり、決定権を持っています。 一方、女性は男性に従属し、決定権がありません。 そして女性は結婚して母となって、初めて一人前の女性とみなされます。適齢期がきても結婚しない女性は、どんなに社会的に成功しても、例えば医者、エンジニアあるいは映画俳優になっても、結婚しない限り一人前とみなされません。 これに対し、適齢期になっても結婚しない男性は愛欲の罠に縛られないとして、むしろ尊敬を受けます。 結婚してない女性は逆に蔑みと偏見の対象になり、社会的に成功している独身の女性の場合は男性優位の社会では男性に対する脅威とすらみなされます。 女性には遺産相続権がなく、未亡人になった場合、夫の財産は夫の兄弟が継承します。そのかわりその未亡人の生活を保証しなければなりません。 また未亡人は自由に再婚はできず、死んだ実の家族の指示に従わねばなりません。場合によっては、実の兄や弟と再婚を強いられます。女性とは対照的に、妻を亡くした男性の場合は再婚が自由であります。 男性優位の伝統は離婚について歴然としています。離婚の権利は男性側にのみあり、さらに離婚された女性は結婚時に贈られた結納金の二倍の額を夫に支払わねばなりません。離婚された女性は社会的に不運な失敗者とみなされます。勿論他方では、このように社会的に弱い立場の女性は危険から保護してあげるという配慮をするのが社会通念になっております。 バタック女性の地位向上、差別克服のために、教会が中心になって努力しており、徐々に事態は改善の方向に向かっているとのことです。 この種族は回教徒で複数の妻をめとる伝統から生まれた生活の知恵とみられます。 彼等の社会では女性の地位は高く、発音力も強く、いわゆる“かかあ天下”で知られています。 一方男性は独立進取の気性に富み、この種族からビジネスマンとして成功しているインドネシア人が少なくありません。 ここでもインドネシアの文化の多様性の一端が窺えます。】 スポンサーの質問にお答えしてクリスチャン・パートナーズ第8号に寄稿して下さいました記事のなかで、是松玲子様がSACプログラムについていくつかのご質問をあげておられます。他にも同じようなご質問をお持ちの方があるかと思いますので、この通信をかりて以下お答えしたいと思います。 【SACの援助を受ける児童の基準について】
SACの目的はキリスト教の宣教にありますので、小・中学校の年令の子供で、クリスチャン・スクールや教会学校に来る子供にはすべて援助の手をひろげることにしています。 しかし、援助金の効果的使用を考えて、現地では次のような状況の場合は援助の対象から外しております。 (1)家庭が比載的に経済的に恵まれ、援助金がなくてもクリスチャンスクールや教会学校に通うことができる場合 (2)子供が学校に来なくなってしまった場合 【スポンサーがまだ付いていない児童の扱いについて】 現地には普通、常にまだスポンサーが付いてない児童のグループが残っております。 しかし、児童の間の差別を避けるため、送られてくる援助金をプールして運営しております。 したがって、その援助金は里子以外の児童の為にも、現地において使われていますので、 経済的な意味においては厳密な専属関係にはありません。 〃精神里親〃とも言われている所以であります。現地で毎日児童に接触するSAC担当者 は、援助金の恩恵を受けている児童全員に対して、その受けている援助が、日本はじめ海外のスポンサーの援助によるものであることを話し、その児童全員にスポンサー宛の手紙やクリスマスカードなどを書かせております。 ちなみに、我々の手許にも4名の末だスポンサーの付いてない児童の写真、身元、氏名が記載されたカードが託されてきており、スポンサーをお待ちしております。 【援助金はどう使われているかについて】 SACのご援助金は、児童一名一カ月当たり4000円いただいておりますが、そのうち1000円は送金手数料、通信費、その他の活動費用に充て、3000円を3カ月まとめて、シンガポールにありますパートナーズ・インターナショナルの東南アジア支部(CNEC)に、SAC西カリマンタンにおける児童の教育費の為の援助金として送金しています。 シンガポール支部はインドネシアのほかにも、フイリッピン、タイその他東南アジア各地のSACプログラムの管理をしています。
次の数字は1985年当時のものですが、シンガポール支部におけるSAC援助金の使途別割合であります。 学校の費用*・・・26%(*注:学費、制服、本、学用品等。) 宣教の費用・・・・25% 管理費用・・・・・33% 予備・・・・・・・16% シンガポール支部は米国カリフォルニア州サンノゼ市にある本部(パートナーズ・インタ ーナショナル)の管理下に置かれ、会計報告も公認会計士の監査を受けて本部に提出されます。 我々の援助金が実際に使われている姿を確かめる方法は、直接シンガポールやカリマンタンを訪ねて、その状況を我々の目で見ることであります。将来SACのスポンサーがグル ープをつくって現地の視察旅行が実現すればと願っております。 今までに、木ノ内理事が1986年カリマンタンのボンチアナックを訪ねてSACの児童と会っております。草野理事や松本理事はサンノゼやシンガポールの事務所を訪問して、その活動状況を目で見てきました。 更に、シンガポール支部のポール・チヤン師やサンノゼ本部の会長フインリー師、その他宣教師として長く現地で献身された諸先生をお招きして、現地の状況、SACについてのご意見等をうかがってきました。これからも、このような機会を作りますので、皆様のご参加を期待しております。 <西カリマンタンの中学校で賛美歌を歌っているSACの生徒達> 【SAC援助金はどのくらい集まっているのでしょか】 全世界のSACプログラムは現在約6千人の児童を擁しており、この他にスポンサーの必要な児童が千人いるとのことであります。サンノゼ本部にスポンサーから送られてくる援助金は一人一カ月$18であります。 この数字で計算しますと、年間の全世界のSACの為の援助金総薮は約$130万($1=135円として約1億8千万円)となります。日本のSACスポンサーは現在34名で、ご援助金総額は、年間約163万円でありますから、総額の1%弱であります。 【現地のキリスト教育はどんなことをやっているのでしょか、どの程度役に立っているのでしょか】 パートナーズ・インターナショナルのシンガポール支部の西カリマンタンにおけ宣教活動は教会形成とキリスト教学校教育が中心になっております。 教会形成にはまず教会学校(日曜学校)を建てて、子供達にキリスト教教育を施し、その延長で教会が建設されて礼拝・集会が開かれます。それまでは家庭集会からスタートします。 一方、西カリマンタンでは公立の学校が足りないため、シンガポール支部は私立の学校(主として小中学校)を建ててキリスト教に基づいた教育を施し、宣教活動の一環としており ます。 同時にキリスト教伝道者養成の為に神学校(高校レベル)も建て、ここで養成された伝道者は教会、教会学校の奉仕者として働きます。ここでは、欧米からの宣教師ではなく、シンガポールや現地の伝道者がすべて奉仕に当たっております。 この現地主義はパートナーズ・インターナショナルの宣教方針でもあります。(この点については、フインリー師の著書で、木ノ内理事が日本語に訳された”家族の絆”に詳しく述べられております。) なおクリスチャン・パートナーズ通信第8号で、西カリマンタンのエンパオンという村で1985年にSACプログラムによってキリスト教主義の中学校が開校し、生徒85名はすべてSACの援助を受けている生徒であることが紹介されました。 同通信では同校で錬成キャンプが開かれて221名のSACの子供達が参加したことが書かれておりますが、これもキリスト教教育の一環です。 今年に入って、同校についてのシンガポールからのニュースによりますと、新校長にソフィア師が就任し、伝道活動は一段と活発になり、家庭集会や祈祷会に出席する生徒が増えてきており、なかには教会学校で教師として奉仕したり、賛美歌を指導したりする生徒も出てきたとのことであります。 クリスマス・メールの発送について1991年もあと2カ月を残すのみとなりました。今年もSACの子供達にクリスマス・カードを送る準備をしたいと思います。当事務所経由で一括して送付ご希望の方は11月15日迄に当方に着くようお送りください。 そして必ず里子番号をお書きください。
カードのメッセージはできるだけ英文を希望しますが、それが無理な場合は日本文で結構です。 なお11月15日に間に合わない場合は、直接シンガポール支部宛お送りください。 住所は次の通りです: CNEC(SEA)Headquarters 134-136 Braddell Road Singapore 1335 シンガポールに直接送られる場合は、メッセージは英文でお願いします。 <昨年6月西カリマンタンのキリスト教学校でSACの子供達を対象に行われて錬成キャンプの風景> 新会員の銘介岡野美子様より、このたび里親になられた動機についてお便りが寄せられておりますので、ご紹介かたがた次に抜粋させていただきます。週日は里子としてミリヤナちゃんをご紹介下さり有舞うごぎいました。
偶然の機会に教会の岡田信子さんから、SACのお話を伺い、以前からこういうことに関心を持っておりましたので、主人と相談しすぐに仲間に加えて頂くことにいたしました。 私どもは夫婦と私の母、それに会社勤めの娘の4人家族なので幼い子供さんの気持ちなどに疎くなっておりますが、少しずつ理解できるように心がけるつもりです。 主人は停年までミッションスクールの教師をしておりましたので、教育には特に関心を持っておりますが、外国、中でも東南アジアの教育事情は情報も少なく、殆んど知らないに等しいと思います。 人間形成の基礎となる中等教育も、今の日本では、心の豊さを育むことを忘れた偏ったものになってしまったように思われます。 ミリヤナちゃんの写真を見ていると、そんな日本の子供達に失われた純真な子供らしさを感じました。かつて、私達は家族みんなして一生懸命働きました。 ミリヤナちゃんの家族もきっと今、そんな日々を過ごしているのでしょう。私達のささやかな協力が少しでも役に立てたら本当に嬉しいことです。 〈編集後記〉 台風、大雨が去って、やっとすがすがしい秋となりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。今回の通信第11号では第8号に続いてインドネシアの紹介をさせて項きました。 なにしろ国が広大で多様な文化を持つインドネシアの全貌は容易に知り尽くせません。 これからも折々この国についての記事を掲載したいと思います。 この号についてのご感想、ご意見などお寄せいただければ幸いです。 なおこの通信を借りてご案内させて頂きますが、毎年12月5日は国連が「世界ボランティア・デー」として指定し、世界各国でこの日を記念してボランティア活動の重要性を訴えるイベントを催すことを推奨しております。 日本ではIAVE日本(国際ボランティア活動推進協議会の日本窓口)がこの日に日本や海外の著名なボランティア指導者を招いてセミナーを東京新宿の京王プラザホテルで開催することになりました。 このイベントについて詳しい情報をご希望の方は松本理事(Tel:0467-32-1549) にコンタクトしてください。 (1991.10.25 松本繁雄) |